これは経費にできる?個人事業主が迷いやすい支出の判断基準10選

「この支出、経費にしていいのか分からない」と感じたことのある個人事業主の方は多いと思います。

私は税理士の藤村と申します。前職は国税専門官で、税務署で個人課税と法人課税の実務を通算12年ほど経験したのち独立し、現在は都内で個人事務所を構えています。日々の業務でいちばんよく聞かれるのが、「これって経費になるんですか?」という質問です。

結論から言えば、経費の判断には決まった正解表がありません。同じ「ジムの月会費」でも、経費にできる人とできない人がいる。同じ「スーツ代」でも、職業によって扱いが変わる。だからこそ、判断の軸を自分の中に持っておくことが大事なんです。

この記事では、個人事業主の方が迷いやすい支出を10個取り上げ、それぞれの判断基準と現場での実際の扱われ方を整理します。読み終える頃には、領収書を前にして「これは大丈夫」「これは厳しいかもしれない」と自分で線を引けるようになっているはずです。

経費の判断は「事業との関連性」と「合理的な区分」で決まる

10個の具体例に入る前に、判断の土台となる原則を押さえておきます。ここをふんわり理解したまま個別の話に進むと、応用が利きません。

必要経費の3つの要件

個人事業主の必要経費は、所得税法第37条で定められています。条文を噛み砕くと、おおむね次の3つに整理できます。

  • 売上を得るために直接かかった費用(売上原価など)
  • その年に生じた販売費、一般管理費、その他業務上の費用
  • 業務との関連性が明確で、金額を客観的に把握できるもの

国税庁のNo.1350 事業所得の課税のしくみでも、必要経費とは「収入を得るために直接必要な売上原価や販売費、管理費その他費用」と説明されています。ポイントは「収入を得るために直接必要」という部分。ここが甘いと、税務調査で真っ先に突かれます。

「家事関連費」の壁が一番のつまずきポイント

個人事業主が迷う支出のほとんどは、この「家事関連費」というカテゴリに属します。家事関連費とは、事業用とプライベート用の両方の性質を持つ支出のこと。自宅兼事務所の家賃、スマホ代、自家用車のガソリン代がその代表です。

所得税法では、家事関連費は原則として必要経費に算入できません。例外として認められるのは、業務に必要な部分を明確に区分できる場合だけです。詳しくは国税庁のNo.2210 やさしい必要経費の知識に解説があります。

この「明確に区分」という言葉が重い。直感や雰囲気では通用しません。家計簿で「これは仕事用、これは家族用」と分ける作業に近いものです。

税務調査で問われるのは「説明できるか」

私が国税にいた頃の話で言うと、税務調査で経費が否認される理由のほとんどは「事業関連性の説明ができない」ことでした。領収書があるかどうかではなく、「なぜそれが必要だったのか」を口頭でも書面でも説明できるかが勝負を分けます。

逆に言えば、たとえ金額が大きくても、根拠と記録がそろっていれば否認されにくい。経費判断は税法の知識量ではなく、日々の記録の積み重ねの戦いです。

家事按分で迷う支出【1〜3】 私用と混ざるもの

まずは家事関連費の代表選手を3つ片付けます。共通するのは「按分(あんぶん)」という考え方です。プライベートと事業の比率を数字で示して、事業分だけを経費にする方法を指します。

【1】自宅家賃・水道光熱費

自宅で仕事をしている方の家賃や光熱費は、業務に使っている割合に応じて経費にできます。判断の基準は次のとおりです。

  • 家賃は自宅の総面積に対する仕事スペースの面積比で按分する
  • 電気代は使用時間または面積比で按分する
  • 水道・ガス代は仕事内容と直接関係する場合のみ計上する

たとえば、自宅60平米のうち15平米を仕事用のデスクとしているなら、按分比率は25%。家賃10万円なら2万5,000円が必要経費の目安です。電気代は使用時間で見ることも多く、1日16時間の活動のうち8時間仕事に使っているなら50%、といった具合に計算します。

注意点を2つ。1つ目は、家賃をあまりに高く按分すると住居としての生活実態と矛盾するため、税務署の目に止まりやすくなります。30%を超えるあたりから、按分根拠の説明を慎重に整える必要があります。2つ目は、按分の根拠(間取り図や使用時間の記録)を手元に残しておくこと。これがないと、調査時に話が進みません。

【2】スマホ代・インターネット回線

スマホとネット回線は、ほぼすべての個人事業主に関係するテーマです。1台で仕事と私用を兼用しているなら、家事按分が必要になります。

対象按分の考え方
スマホ通話履歴と使用時間で按分
自宅のネット回線1日のうち事業で使う時間比率で按分
仕事専用の回線全額を経費にできる

私の感覚では、フリーランスの方の場合、スマホ代の経費比率は5〜7割に落ち着くケースが多い印象です。ただし「だいたい7割」という曖昧な根拠だと、調査時に説明に困ります。1か月だけでも実際の使用ログを記録しておき、その実数を年間の按分根拠にする方法をお勧めしています。

仕事用のスマホ番号を別に契約する方も増えていますが、業務量に対して契約コストが見合うかは別問題です。年商や利用頻度を踏まえて判断してください。

【3】自動車・ガソリン代

自家用車を仕事に使っている方は、走行距離による按分が王道です。車両関連の経費は、性質ごとに次のように分かれます。

  • 車両本体は減価償却(普通車の法定耐用年数は6年、軽自動車は4年)
  • ガソリン代は走行距離で按分
  • 車検代・自動車税・任意保険料は走行距離で按分
  • 仕事先での駐車場代は全額、自宅駐車場代は按分

たとえば、年間1万キロ走った車のうち、仕事で使ったのが3,000キロなら按分率は30%。ガソリン代年間20万円なら6万円が経費の目安になります。

走行距離の根拠も大事です。手帳に訪問先と日付を書いておく、カーナビの履歴を残す、地図アプリの移動履歴を利用する。手段は何でも構いませんが、年に一度のドカ盛り記録では説得力に欠けます。月単位、せめて四半期単位で記録するのが現実的です。

衣食住に関わる支出で迷うもの【4〜6】

ここからは「私的支出と業務支出の線引きが難しい」テーマです。家事按分以前に、そもそも経費に入れていいのかどうかが争点になります。

【4】カフェ代・一人ランチ

カフェ代と一人ランチは、ご相談の頻度ランキングで毎年上位に来ます。結論から言えば、判断は次のとおりです。

  • 一人でカフェに入った場合の飲み物代は、仕事をしていた事実があれば計上できる(雑費・会議費)
  • 一人ランチや自分の食事代は、原則として経費にはならない
  • 取引先や見込み顧客との打ち合わせ飲食は、会議費または接待交際費でOK

食事は生活に必要なものなので、たとえ仕事中の昼食でも私的支出と扱われます。例外的に出張で泊まりがけになる場合は旅費(食事代込みの日当)として整理できますが、地元での日常的なランチは経費になりません。

カフェの飲み物代についても、レシートの裏や帳簿のメモ欄に「○○の作業のため」と書き添える習慣を付けてください。私の事務所では、レシート1枚ごとに目的を一言メモする運用をお勧めしています。

【5】スーツ・仕事着

スーツ代を経費にできるか。これも頻出テーマです。

原則は「経費にならない」と覚えてください。理由はシンプルで、スーツは普段着としても使える以上、私的支出と業務支出の区分が明確にできないからです。

例外として認められやすいのは、次のような場合に限られます。

  • 制服やユニフォームとして職場のロゴが入っている
  • 業務以外で着用できないデザイン(着ぐるみ、ステージ衣装など)
  • 業種上、特定の格好が必須(神主、医師の白衣など)

講師業の方やコンサルタントの方から「客先に行くのに普段着では無理だ」とよく相談を受けますが、私服と兼用できる以上、経費計上は厳しいのが現状です。ネクタイや革靴も同じロジックで判断されます。

【6】美容院・化粧品代

美容院や化粧品も似た構造です。日常生活の身だしなみの範囲は、経費にできません。

経費が認められるのはごく限定的で、次のような職業に限られます。

  • モデル、俳優、タレント、アナウンサー
  • ヘアスタイリスト、メイクアップアーティスト
  • ファッション系の発信を生業にしている人(業務上の撮影が頻繁にある場合)

たとえばモデルの方が撮影のために特殊なヘアスタイルにする費用、俳優の方が役柄のためにカラーを入れる費用は、業務に直接必要と説明できるため経費計上の余地があります。逆に、コンサルタントや士業の方が「印象が大事だから」という理由で美容代を経費に入れるのは、現場の感覚として無理筋です。

「自分への投資」で迷う支出【7〜9】

自己投資は事業を伸ばす大事な要素です。ただ、税法上の必要経費としての扱いはまた別の話。「自分のため」という側面が強いほど、経費にしにくくなります。

【7】ジム会費・健康診断代

ジムの会費や健康診断代は、個人事業主本人については原則として経費になりません。

理由は、これらが「個人の健康維持」を目的とする支出だからです。事業の収入を直接得るためのものではなく、生活を支える費用として扱われます。

気をつけたいのが「福利厚生費」との混同です。法人や従業員を雇っている個人事業主の場合、従業員向けの福利厚生として健康診断代やジム会費を経費計上することは可能です。ただし、個人事業主本人や同一生計の家族には適用されません。本人だけでやっている事業に、福利厚生費というカテゴリは存在しないと考えてください。

健康診断や人間ドックの費用は、医療費控除の対象にもなりません(病気の治療目的でない場合)。健康関連の支出は、節税の道具にはなりにくいと割り切るのが現実的です。

【8】書籍代・セミナー受講料

業務に関連する書籍代やセミナー受講料は、新聞図書費や研修費として経費にできます。

経費にしやすいもの経費にしにくいもの
業務に直結する専門書、業界誌趣味や教養目的の書籍
業務関連のセミナー、勉強会業務との関連性が薄い自己啓発セミナー
業界団体の研究会参加費健康・マインドフルネス系の講座

判断のコツは「事業に直接役立つか」を具体的に説明できるかです。たとえばWebデザイナーがUIデザインの専門書を買うのは明らかに経費ですが、同じ人が「コミュニケーション力を上げるため」と心理学の本を大量に買い込むと、業務関連性の説明が苦しくなります。

私の事務所では、書籍を経費にする際、書名と一緒に「業務上どう役立てたか」を一行メモする運用を提案しています。1冊につき5秒の作業で、調査対応力が大きく変わります。

【9】資格取得費用

資格取得費用は、業務に直接必要かどうかで判断が分かれます。

経費にできるパターンは次のとおりです。

  • 現在の業務遂行に直接必要な技能・知識の習得費用
  • 業務上の更新講習、登録手数料
  • 既存事業の延長線上にある専門資格

経費にしにくいパターンはこちらです。

  • 弁護士、税理士、医師など個人に帰属する国家資格の取得費用
  • 現行業務との関連性が薄く、独立や転職の準備となる資格
  • 「将来役立つかもしれない」という不確実な動機の資格

たとえば、すでに不動産仲介業を営んでいる方が宅地建物取引士の資格を取る費用は、業務に直接必要として認められる可能性があります。一方、サラリーマンを続けながら税理士を目指して予備校に通う費用は、個人の資質向上として扱われ、原則経費にはなりません。

独立直前の準備費用や開業前の資格取得は、後で「開業費」として繰り延べ計上できる場合があります。判断に迷う場合は領収書をすべて保管したうえで、税理士に相談する流れをお勧めします。

取引先以外との飲食代で迷う支出【10】

10項目の最後は、接待交際費の境界線です。事業者同士の情報交換、友人との久しぶりの食事、家族との外食。これらをどう扱うかという話を整理します。

【10】友人・知人との飲食代

個人事業主の接待交際費には金額の上限がありません。ここは法人と違って、有利な点です。

ただし、上限がないことと「何でも経費になる」は別の話。経費にできるのは、あくまで事業との関連性が説明できる飲食に限ります。

  • 取引先や見込み顧客との会食は接待交際費として計上可
  • 同業者との情報交換、勉強会後の食事会は内容次第で会議費・接待交際費
  • 家族や友人との食事会は原則として経費にならない
  • 飲み仲間との交流は、たとえ仕事の話が出ても私的な集まりとして扱われる

現場でよくあるのが、「取引先と友人を兼ねている相手」のケースです。同じ人物が業務上のパートナーであり、プライベートでも仲が良いという状況。この場合、「その回の食事会が業務上必要だったか」を客観的に説明できるかが鍵になります。「いつ、誰と、何の目的で会ったか」を領収書とセットで残しておきましょう。

接待交際費と会議費の境界

飲食代を計上するときの勘定科目は、状況によって変わります。

  • 1人あたり5,000円以下の少額飲食は会議費として扱うことが多い
  • 取引先との懇親会は接待交際費
  • 同業者との勉強会後の食事は会議費に近いが、内容次第で接待交際費にもなる

個人事業主の場合、勘定科目の名前自体は税額に直接影響しません。ただし、税務調査で内訳を説明するときに勘定科目と実態が一致していないと、余計な質問を呼びます。会議の実態があれば会議費、接待・親睦の要素が強ければ接待交際費という使い分けが自然です。

記録の残し方

飲食代の経費計上で一番大事なのは、記録です。私の事務所では、領収書の裏に最低3つの情報を書いておく運用をお願いしています。

  • 日付(領収書に印字がない場合)
  • 同席した相手の名前と所属
  • 目的(何の打ち合わせ・会食か)

スマホで領収書を写真撮影してクラウドに保存する方も多いと思います。その場合も、撮影時に画像の説明やタグに同じ情報を入れておくと、年末にまとめて整理するのが格段に楽です。

迷ったときの判断フローと税務調査での備え方

ここまで10項目を見てきましたが、すべてを暗記する必要はありません。判断のフローを身につけておけば、未知の項目にも応用が利きます。

3つの問いで自己診断する

領収書を前にして迷ったら、次の3つを自問してください。

  • その支出は、事業の売上に直接または間接的に貢献しているか
  • 業務に使った部分とそれ以外を、数字や記録で区分できるか
  • 税務署の人に口頭で説明したとき、納得してもらえる根拠を持っているか

3つ全部にYesと答えられるなら、経費にして問題ありません。1つでもNoが残るなら、いったん仕訳を保留して税理士に相談する流れが安全です。

按分根拠は「数字」で示せる形に

家事関連費の按分は、感覚ではなく数字で示すのが基本です。

  • 面積比は間取り図と仕事スペースの平米数で計算する
  • 時間比は1日の活動時間に対する業務時間で計算する
  • 走行距離は訪問先の記録から実数で計算する

按分率は毎年同じ数値を機械的に使い続けるよりも、業務形態が変わった年には見直すのが筋です。在宅勤務の時間が増えた、業務量が増えて作業スペースを広げた、そういった変化があれば按分率も連動して動くはずです。

メモ習慣が説明力を生む

私が国税にいた頃、調査で経費を否認した案件のほとんどは「メモがない」ことが理由でした。領収書はあるけれど、何のために使ったかが本人も思い出せない、という状態です。

逆に、シンプルな手書きメモでもいいので、目的や同席者を記録している事業者は、調査官との対話がスムーズに進みます。経費の正否を分けるのは、税法の知識量ではなく、日々の記録です。地味ですが、これに勝る節税対策はありません。

まとめ

経費の判断は、税法の条文を暗記する作業ではありません。「事業との関連性」と「合理的な区分」という2つの軸で、自分の支出を客観的に説明できるかどうかの勝負です。

今回取り上げた10項目を振り返ると、判断のパターンは大きく3つに分かれます。

  • 私用と業務が混在するもの(家賃・通信費・自動車)は、合理的な根拠で按分する
  • 私的支出の色が強いもの(食事・衣類・美容・健康)は、原則経費外で職業要件を見る
  • 業務との関連性が問われるもの(書籍・資格・飲食代)は、事業のためという根拠を記録に残す

経費を1円でも多く取りたい気持ちは分かります。ただ、税務調査で否認されたときに払うのは、本税に延滞税と加算税を合わせた金額です。攻めの計上をするなら、説明できる根拠と記録をセットで持つこと。これが個人事業主として長く事業を続ける上での、いちばん地味で確実な節税対策だと私は思っています。

判断に迷う支出があれば、お住まいの地域の税理士に相談してみてください。個別の事情によって、最適な答えは変わります。

すでに顧問税理士がいる方で「うちの事業の現在地に合っているのか」とどこかで感じている場合は、税理士チェンジというメディアを覗いてみるのも一つの手です。運営者ご自身の税理士変更の実体験をベースに、税理士の選び方や付き合い方の判断軸が整理されています。経費の取り扱いを含めた節税の方向性は、相談する相手によって大きく変わりますから、税理士との関係性を見直す視点を持っておく価値はあります。

なお、本記事は2026年5月時点の情報に基づきます。税制は毎年改正されますので、最新情報は国税庁の公式サイトで確認してください。