初めての確定申告で押さえておきたい5つの基本
「今年から自分で確定申告をしないといけないんですが、何から手をつければいいですか」。毎年2月が近づくと、私のところにはこの一言で相談に来られる方が一気に増えます。フリーランスとして独立した直後の方、副業で一定の収入を得た会社員の方、不動産を売却した方。それぞれ事情は違いますが、共通しているのは「手続きの全体像が見えない」という不安です。
税理士の藤村です。国税専門官として12年間、確定申告期にはひたすら個人の方の申告書とにらめっこする日々を送ってきました。独立してからの8年でも、初めて確定申告に挑む方を毎年お手伝いしています。
国税の現場と税理士の現場、両方で気づいたのは「初めての方が引っかかるポイントは、だいたい決まっている」ということです。難しい税法の話を理解する必要はありません。最初に押さえるべき基本は5つだけ。この記事では、その5つを順番に整理していきます。読み終える頃には、自分が何を準備して、いつまでに何をすればいいのかが、頭の中で線につながっているはずです。
なお、本記事は2026年5月時点の情報に基づいています。税制は毎年見直されますので、実際に申告される際は最新の公的資料の確認をおすすめします。
目次
基本①:自分が確定申告の対象かを確認する
最初の関門は「そもそも自分は確定申告をしないといけないのか」を見極めることです。当たり前のようでいて、ここを正確に判断できる方はそう多くありません。
個人事業主・フリーランスは原則として対象
事業所得がある方、つまり個人事業主やフリーランスとして働いている方は、原則として確定申告が必要です。1年間の売上から必要経費を差し引いた「所得」が、各種控除の合計額を上回るときは申告して納税します。
「副業を少しやっている程度なんですが、それでも申告が要りますか」と聞かれることがあります。結論から言えば、副業の所得が年間20万円を超える会社員の方は、申告が必要です。ここでいう「所得」は売上ではなく、売上から経費を引いた残額です。月に2万円の副業収入でも、経費がほとんどなければ年間で20万円を超えてしまうので、想像より早く対象になります。
会社員でも確定申告が必要になるケース
会社員の方は基本的に年末調整で完結しますが、次のような場合は別に申告が必要です。
- 給与の年収が2,000万円を超える
- 1か所からの給与を受けつつ、副業など給与以外の所得が年間20万円を超える
- 2か所以上から給与を受けていて、年末調整をしていない給与収入と副業所得の合計が20万円を超える
- 住宅ローン控除を初めて受ける(1年目のみ。2年目以降は年末調整でOK)
- 退職して年内に再就職していない
私が国税にいた頃、副業の20万円ルールを「年収20万円」と勘違いされている方をよく見かけました。あくまで「所得」、つまり経費を引いた後の金額です。これを誤解したまま申告漏れになると、後から税務署のお尋ねが来る可能性が出てきます。
還付を受けられる人も多い
「申告が必要かどうか」とは別に、「申告すれば税金が戻ってくる可能性がある」ケースも押さえておきたいところです。会社員の方でも、次のような事情があれば還付申告ができます。
- 年間の医療費が10万円(または所得の5%)を超えた
- ふるさと納税をしたがワンストップ特例を使っていない
- 災害や盗難で資産に損害を受けた
- 年の途中で退職して年末調整を受けていない
還付申告は原則として翌年1月1日から5年間できます。「うっかり忘れていた」場合でも、過去5年分はさかのぼって申告可能です。私が独立してから関わった事例でも、数年分まとめて還付を受けて十数万円戻ってきた方が何人もいます。
基本②:青色申告と白色申告のどちらにするか決める
事業所得や不動産所得がある方は、申告の種類として青色申告と白色申告のどちらかを選ぶことになります。何も手続きをしなければ自動的に白色です。
青色申告の特別控除は3段階
青色申告の最大の魅力は、青色申告特別控除という所得から差し引ける枠が用意されている点です。控除額は記帳方法と申告方法によって3段階に分かれます。
| 控除額 | 主な要件 |
|---|---|
| 65万円 | 複式簿記による記帳+e-Taxによる電子申告(または優良な電子帳簿保存) |
| 55万円 | 複式簿記による記帳+紙申告 |
| 10万円 | 簡易簿記による記帳 |
たとえば年商600万円・経費200万円のWebマーケターの方なら、所得は400万円。ここから65万円の青色申告特別控除を差し引けば、課税所得は335万円まで下がります。所得税と住民税を合わせて、ざっくり20万円近い節税効果になる計算です。会計ソフト代を払っても十分にお釣りが来ます。要件の詳細は、国税庁の「No.2072 青色申告特別控除」が一次情報として正確です。
白色申告のシンプルさと、その限界
白色申告には事前の届出が要りません。確定申告期に収支内訳書を作って申告書と一緒に出せば、それで完了です。手続きの軽さでは間違いなく白色が勝ります。
ただし、「白色なら帳簿は要らない」というのは誤解です。平成26年から、白色申告者にも記帳と帳簿の保存が義務付けられています。簡易簿記で十分とはいえ、収入と経費の記録は必須。それなら同じ手間で控除を受けられる青色のほうが、多くの場合は有利になります。
青色申告承認申請書は提出期限がシビア
青色申告を選ぶ場合、注意したいのが「青色申告承認申請書」の提出期限です。
- すでに事業を行っている方:その年の3月15日まで
- 新たに開業した方:開業日から2か月以内
たとえば2026年中に青色申告を始めたい方が、4月や5月になってから申請しても、青色になるのは翌年からです。「年が明けてから決めればいい」と思っていると、初年度は強制的に白色になってしまいます。現場でよくあるのが、開業届だけ出して青色申告承認申請書を忘れているパターン。開業時に2枚セットで提出するクセを付けておくのが確実です。
基本③:申告期間と必要書類を早めに押さえる
3つ目の基本は、スケジュール感と書類の準備です。期限ぎりぎりに動き始めると、どこかでつまずきます。
令和7年分の申告期間と納税スケジュール
確定申告は、前年1月1日から12月31日までの所得をまとめて翌年に申告する仕組みです。最新の申告期間を整理しておきましょう。
| 項目 | 期間・期限 |
|---|---|
| 対象期間 | 2025年1月1日〜12月31日(令和7年分) |
| 申告期間 | 2026年2月16日(月)〜3月16日(月) |
| 所得税の納付期限 | 2026年3月16日(月) |
| 消費税の納付期限(課税事業者) | 2026年3月31日(火) |
| 振替納税の引落日(所得税) | 2026年4月下旬予定 |
例年であれば3月15日が期限ですが、令和7年分は3月15日が日曜日のため、翌営業日の3月16日が期限になります。e-Taxであれば、1月初旬から申告書の送信が可能です。混雑するのは2月後半から3月上旬なので、早めに動けるなら2月中の提出をおすすめします。
共通して必要になる書類
申告内容にかかわらず、ほぼ全員が用意することになる書類はだいたい決まっています。
- マイナンバーカード(または通知カード+運転免許証などの本人確認書類)
- 申告書(A様式・B様式の区分は廃止され、現在は一本化されています)
- 銀行口座情報(還付金の受取口座)
- 印鑑(紙申告の場合)
マイナンバーカードを持っていれば、それ1枚で番号確認と本人確認の両方を兼ねられます。紙で出す場合は、表面と裏面の両方をコピーして添付台紙に貼り付けてください。マイナンバーカードがない場合は、通知カードまたは住民票(マイナンバー記載のもの)と、運転免許証など顔写真付きの本人確認書類を組み合わせて使います。
収入と控除の証拠書類
ここからは申告の中身によって必要なものが変わります。代表例を挙げると次の通りです。
- 給与所得がある方:源泉徴収票
- 個人事業主:売上の請求書や入金記録、経費の領収書、帳簿
- 配当・株式売却がある方:特定口座年間取引報告書
- 医療費控除を受ける方:医療費通知や領収書、医療費控除の明細書
- 社会保険料控除:国民年金保険料控除証明書、国民健康保険料の納付額が分かる書類
- 生命保険料・地震保険料控除:保険会社からの控除証明書
- 住宅ローン控除:金融機関の年末残高証明書、登記事項証明書、売買契約書のコピー
- ふるさと納税:寄附金受領証明書または特定事業者発行の年間寄附金額証明書
「あとで探せばいい」と思って溜め込んでおくと、申告期に部屋を引っかき回すことになります。届いた控除証明書は、専用の封筒やクリアファイルにその都度まとめておくのが、私のおすすめです。
基本④:経費と控除の判断基準を身につける
「これって経費にしていいんですか」。この質問を、私はおそらく1万回近く受けてきました。それくらい、初めての方が迷うポイントです。
経費にできるのは「事業に必要な支出」
大原則として、経費にできるのは「その支出が事業の売上を得るために必要だったかどうか」で判断します。法律で「これは経費」「これはNG」と一つひとつ決まっているわけではなく、業務との関連性が説明できるかどうかが分かれ目です。
たとえばWebデザイナーの方なら、デザインソフトのサブスク料金、参考書籍、打ち合わせ用のカフェ代、フリー素材サイトの月額費用などは、いずれも事業との関連が明確です。一方で、家族との外食代やプライベートの旅行費用は、業務との関連を説明しづらいので経費にはなりません。
迷ったときの判断基準は「税務調査で調査官に聞かれて、5秒で説明できるかどうか」。これに尽きます。
家事按分は「説明できる根拠」が肝心
自宅で仕事をしている個人事業主の方は、家賃・光熱費・通信費の一部を経費にできます。これを家事按分と呼びます。
経費の按分は、家計簿で「これは仕事用、これは家族用」と分ける作業に近いものです。法律上の決まった割合はなく、合理的な根拠で按分すればよいことになっています。たとえば、
- 家賃:仕事に使っている部屋の床面積比率(例:全体の25%)
- 電気代:仕事をしている時間の比率(例:1日8時間使用→33%)
- 通信費:事業用と私用の使用比率(例:50%ずつ)
ここで気をつけたいのが、按分割合の根拠を後から説明できるようにしておくことです。「なんとなく半分」では税務調査で通用しません。間取り図に仕事スペースを書き込んだもの、業務時間を記録したメモなど、客観的に示せる資料を一緒に保管しておくと安心です。
押さえておきたい主な所得控除
経費と並んで税額に直結するのが、所得控除です。代表的なものを挙げておきます。
- 基礎控除:すべての納税者が対象。令和7年分から控除額が引き上げられています
- 配偶者控除・扶養控除:所得要件を満たす配偶者や扶養親族がいる場合
- 社会保険料控除:国民年金や国民健康保険、健康保険の支払額が対象
- 小規模企業共済等掛金控除:小規模企業共済、iDeCo、企業型DCの掛金
- 生命保険料控除・地震保険料控除:保険会社からの証明書が必要
- 医療費控除:年間の医療費が10万円(または所得の5%)超
- 寄附金控除:ふるさと納税や認定NPO法人への寄附
令和7年度の税制改正により、所得税の基礎控除と給与所得控除の最低額が見直され、いわゆる「103万円の壁」は実質的に「123万円の壁」へ広がりました。詳細は国税庁の「令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等と確定申告」で公式情報を確認できます。年末調整で適用済みの方もいれば、転職・退職などで適用しきれていない方もいるので、自分のケースに当てはまるか一度チェックしてみてください。
基本⑤:e-Taxとマイナポータル連携を使い倒す
5つ目は、申告方法の選び方です。結論から言えば、特別な事情がなければe-Taxの一択です。
e-Taxはスマホでも完結する時代
e-Taxは、国税庁が運営する電子申告のシステムです。以前はパソコンとICカードリーダーが必要でしたが、今はスマートフォン1台あれば申告まで完結します。マイナンバーカードをスマホで読み取る方式が主流になり、ハードルはかなり下がりました。
令和7年分の申告に向けて、国税庁は「令和7年分の確定申告はスマホとマイナポータル連携でもっと便利に!」というページで具体的な手順を公開しています。令和8年1月からはiPhoneでも「iPhoneのマイナンバーカード」機能を使えるようになり、本人認証の手間がさらに減る見通しです。
マイナポータル連携で入力が自動化される
最近のe-Taxで一番進化したのが、マイナポータル連携です。事前にマイナポータルと自分の情報源をひも付けておくことで、次のようなデータが申告書に自動入力されます。
- 給与所得の源泉徴収票
- 公的年金等の源泉徴収票
- 国民年金保険料の控除証明書
- 生命保険料・地震保険料の控除証明書
- 医療費通知情報
- ふるさと納税の寄附金額
国税庁の発表によれば、令和6年分の申告では約310万人がマイナポータル連携を活用しました。源泉徴収票や控除証明書を手入力する必要がほぼなくなるので、入力ミスも減ります。控除証明書を集める手間そのものを減らせるのが、現場感覚では一番ありがたいところです。
紙申告と比べたメリット
紙申告との違いを整理すると、e-Taxの優位性が分かりやすくなります。
| 項目 | e-Tax | 紙申告 |
|---|---|---|
| 提出時間 | 24時間(メンテナンス時間を除く) | 税務署の開庁時間内 |
| 添付書類 | 多くが省略可能 | 控除証明書などを台紙に貼って提出 |
| 還付までの期間 | 約3週間が目安 | 約1〜1.5か月 |
| 青色申告特別控除 | 65万円控除の対象 | 55万円控除まで |
| 提出証明 | 受信通知が即時発行 | 控えに収受日付印が必要 |
青色申告で65万円の特別控除を狙うなら、e-Tax提出は事実上の必須要件です。紙申告でも55万円までは取れますが、10万円分を捨てることになります。
初めての申告で気をつけたい3つの落とし穴
5つの基本に加えて、初めての方が「知っていれば防げた」と後悔しがちな落とし穴を3つ補足しておきます。
期限に遅れると加算税と延滞税がかかる
申告期限を過ぎてしまうと、本来の税額に加えて無申告加算税と延滞税が課されます。無申告加算税は原則として、納める税額の15%(50万円を超える部分は20%)。期限後でも自主的に申告すれば5%に軽減されますが、それでもバカにならない金額です。
延滞税のほうは、納付期限の翌日から日割りで発生します。1日単位で増えていくので、遅れていることに気づいたら、1日でも早く動くのが正解です。
私が国税にいた頃、「忙しくて間に合わなかった」という事情で来署された方を何人も見てきました。事情はそれぞれですが、税務署側からすれば「期限内に出せなかった事実」のほうが重く扱われます。
提出後の誤りは「更正の請求」か「修正申告」
申告書を出した後で間違いに気づいた場合、訂正の方法は2種類あります。
- 税額が少なすぎた(本来もっと納めるべきだった)→ 修正申告
- 税額が多すぎた(本来もっと還付されるべきだった)→ 更正の請求
修正申告は、気づいた時点で速やかに行えば、加算税が軽減されます。税務署から指摘を受ける前に自分で出すかどうかで、結果が変わってきます。更正の請求は法定申告期限から原則5年以内であれば可能です。「うっかり控除を入れ忘れた」「経費を漏らした」というケースなら、慌てず更正の請求を検討してください。
帳簿と書類は最低でも5〜7年保存する
申告が終わったらすべて捨ててOK、というわけにはいきません。帳簿や領収書には保存義務があります。
| 区分 | 保存期間 |
|---|---|
| 帳簿(仕訳帳、総勘定元帳など) | 7年 |
| 決算関係書類(損益計算書など) | 7年 |
| 現金預金取引等関係書類(領収書、預金通帳など) | 7年(前々年分の事業所得等が300万円以下なら5年) |
| その他の書類(請求書、納品書など) | 5年 |
電子帳簿保存法の改正により、メールやクラウドサービスでやり取りした請求書・領収書は、原則として電子データのまま保存することが義務化されています。プリントアウトして紙で保管するだけでは要件を満たさない場合があるので、運用ルールは早めに整えておきましょう。
税務調査は健康診断のようなもの。普段から準備ができていれば怖くありません。私が現場で見てきた感覚では、書類整理がきちんとしている方ほど、調査もスムーズに終わります。
まとめ
初めての確定申告で押さえておきたい5つの基本を、もう一度整理します。
- 自分が確定申告の対象かを確認する
- 青色申告と白色申告のどちらにするか決める
- 申告期間と必要書類を早めに押さえる
- 経費と控除の判断基準を身につける
- e-Taxとマイナポータル連携を使い倒す
そして、期限・訂正方法・保存義務という3つの落とし穴。ここまで知っていれば、初めての確定申告でも大きな失敗はまず起こりません。
確定申告は、慣れてしまえば年に一度のルーチン作業です。最初の年だけが少し大変。そこを乗り切ると、毎年の流れが体に染みついてきます。私の事務所のお客様も、初年度は二人三脚で進めますが、2年目以降は自走できる方がほとんどです。
それでも、自分の業種や事業規模によっては「これって経費にできる?」「この控除は使える?」と判断に迷う場面が出てきます。個別事情によって最適解は変わりますので、悩ましいテーマに当たったら、お住まいの地域の税理士に一度相談してみるのも選択肢の一つです。知っていれば防げる損を、ひとつでも減らしていきましょう。